AI の自己改善とは、AI エージェントが躓いた所を自分で記録し、同じ型が重なったら自分の手順書を直していく運用のことです。
- ここで言う自己改善は、モデルの学習し直しではなく、AI エージェントが自分の手順書を書き換えることです。
- 作法は「躓いたら 1 行書く」「同じ型が重なったら手順を直す」「直したことも 1 行書く」の 3 つです。
- 株式会社命の記録では、同じ AI エージェントが同じ型で 2 回以上躓いたのは 12.9%、1 回で止まったのは 87.1% でした(社の実測 2026-10-20)。
研究の「自己改善」と、運用の自己改善は別の物
「AI の自己改善」で調べると、AI が自分で自分を賢くしていく研究の話が多く出てきます。モデルが自分の出力から学び直す、自分のコードを書き換える、といった話です。中小企業がすぐに手を付けられる話ではありません。
この記事で扱うのは、もっと手前の、運用の自己改善です。モデルそのものには触りません。変わるのは、AI エージェントが仕事のたびに読む手順書です。AI エージェントが仕事の途中で躓いたら、それを記録に残し、同じ躓きが重なったら、AI エージェントが自分の手順書のその箇所を直します。次に同じ仕事をするとき、AI エージェントは直った手順書を読んで動きます。
| 見る所 | 研究で言われる自己改善 | 運用の自己改善(この記事) |
|---|---|---|
| 変わる物 | モデルの中身や、AI が書いた自分のコード | AI エージェントが読む手順書 |
| 材料 | 大量の試行と評価の点数 | 仕事の途中で躓いた回の記録 |
| 直す単位 | モデル全体 | 手順書の 1 か所 |
| 戻し方 | 難しい | 直す前の版に戻せば済む |
| 確かめ方 | 試験の点数 | 同じ所で同じ躓きが繰り返されたかを数える |
| 必要な物 | 研究の設備 | 躓きを書く表と、手順書を AI エージェントが書き換えられる置き場 |
躓いたら、その場で 1 行書く
自己改善の材料は、躓いた回の記録です。株式会社命では、AI エージェントが判断を仰いだとき・失敗したとき・躓いたとき・人の手を借りたときに、決まった表へ 1 行ずつ書きます。書くのは人ではなく、躓いた AI エージェント自身です。
| 列 | 何を書くか | 自己改善での役目 |
|---|---|---|
| 日付・領域・AI エージェント | いつ、どの仕事の領域で、どの AI エージェントが | 誰の手順書を直すかが決まる |
| 型 | 「何の仕事の、何の判断か」を表す名前。一度決めたら変えない | 同じ躓きを束ねる鍵になる |
| 対象 | 何についての躓きか | 手順書のどこを直すかの手がかり |
| 予測・見た物・答え・一致 | 先に自分の答えを書いてから聞いたときの、予測と実際の答え | どこで読み違えたかが分かる |
| 種別 | 判定・失敗・躓き・人の手が要った のどれか | 直す対象を絞る |
| 層 | 記憶・つなぎ口・手順書・判断・定期の仕事 のうち、どれが足りなかったか | 手順書を直せば済むのか、別の所を直すのかを分ける |
| 決着の印 | 直し終えたか、まだ残っているか | 直していない躓きの在庫が見える |
要は型の列です。同じ躓きでも、書くたびに名前が揺れると数えられません。型の名前を一度決めたら変えない、という決まりを置いているのはそのためです。数えられて初めて、「この AI エージェントは、この所で、また躓いている」と分かります。
AI エージェントが自分の手順書を直す作法
記録が溜まったら、AI エージェントは自分の手順書を直します。株式会社命で決めている作法は次の 4 つです。
躓いたら、まず 1 行書いて仕事に戻る
その場で手順書を大きく書き換えません。1 回の躓きは、たまたまかもしれないからです。書いておけば、後で同じ型を引けます。
同じ型が重なったら、手順書のその箇所を直す
同じ AI エージェントの同じ型が重なったら、それは手順書の穴です。足りない段を足す、確かめる段を前に出す、迷った所に「こういうときはこうする」を書き足す、のどれかで直します。
直したことも 1 行書く
「手順書のどこを、何から何に変えたか」を同じ表に 1 行書きます。直した後に同じ型がまた出たら、直し方が足りなかったと分かります。
直してよい物と、直さない物を分ける
AI エージェントが自分で直してよいのは、自分の手順書だけです。会社の決まりを書いた紙と、他の人が作った手順書は直しません。決まりと現実が合っていないと気づいたら、直さずにそのことを 1 行書き、人が決める側へ回します。
4 つ目が抜けると、自己改善は危うくなります。AI エージェントが自分に都合よく決まりを書き換えられるなら、それは改善ではなく、線が消えていくだけだからです。直す範囲を自分の手順書に絞ることで、人が決める事は人の手に残ります。
株式会社命の実測 — 同じ所で同じ躓きを繰り返したか
この作法で、同じ躓きの繰り返しはどれだけ起きているのか。判断の記録のうち、躓き・失敗・人の手が要った の行を、「AI エージェント × 型」の組で束ねて数えました。
| 同じ AI エージェントの同じ型が | 割合 |
|---|---|
| 2 回以上出た | 12.9% |
| 1 回で止まった | 87.1% |
躓きを 1 行書いて手順書を直す運用のもとで、同じ AI エージェントが同じ所で同じ躓きを繰り返したのは 1 割強にとどまりました(社の実測 2026-10-20)。残りの 9 割近くは、一度出たきりです。
ただし、この数字を「手順書を直したから止まった」と読むことはできません。1 回で止まった組の中には、手順書を直したから二度と起きなかった物もあれば、もともと一度しか起きない躓きだった物も含まれています。この数え方では、その二つを分けられません。言えるのは、「同じ所で同じ躓きを何度も繰り返す」形にはなっていない、というところまでです。
むしろ大事なのは 12.9% の方です(社の実測 2026-10-20)。ここが、手順書を直しても止まらなかったか、まだ直していない躓きです。自己改善の運用では、この組を一つずつ見て、手順書の直し方が足りなかったのか、そもそも手順書では直らない所なのかを分けていきます。
手順書を直しても止まらない躓き
同じ型が繰り返される所を見ていくと、手順書を書き換えるだけでは止まらない物があります。
- 外のサービスの入口 — ログインや本人確認で止まる躓きは、手順書に何を書き足しても、入口の作りが変わらない限り繰り返します。直すのは手順書ではなく、つなぎ口の方です。
- 人が決める事 — お金・売る物の向き・契約・本番への反映のように、人が決めると決めてある事は、AI エージェントが手順書を直して乗り越えてよい物ではありません。繰り返し人に上がるのは、正しく止まっている証拠でもあります。
- 型の名前の揺れ — 同じ躓きに別々の名前が付くと、繰り返しが数字に出ません。割合が低く見えても、名前が揃っているかを先に確かめます。
人の手が要った回が何に原因があったのかは、人の手が要った回の原因を数えた記事に書いています。手順書の不足は、その原因の一つにすぎません。
自社で始めるときの順番
道具を揃えるより先に、記録の器を作ります。
躓きを書く表を 1 枚作る
日付・AI エージェント・型・対象・種別だけでも始められます。表は 1 枚にし、AI エージェントごとに分けません。
AI エージェントに「躓いたら 1 行書く」を手順書の頭に入れる
人が気づいて書くのでは続きません。躓いた本人が書く形にします。
手順書を AI エージェントが書き換えられる所に置く
直した前の版に戻せる置き場にしておけば、直し方を間違えても戻せます。
「同じ AI エージェント × 同じ型」で数える
2 回以上出た組の割合を定期的に見て、その組から手順書を直していきます。
AI エージェントをどう並べ、いつ起こすかという組織の組み方は、AI 組織とはの記事にまとめています。会社全体の実行の数字は自社の実測の頁にあります。
よくある質問
AI の自己改善とは、簡単に言うと何ですか?
AI エージェントが自分の躓きを記録し、同じ躓きが重なったら自分の手順書を直していくことです。モデルを学習し直す研究の話とは別で、手順書を書き換えるだけなので、中小企業の運用でも始められます。
AI が自分で自分を直すのは危なくないですか?
直してよい範囲を決めておけば抑えられます。株式会社命では、AI エージェントが直してよいのは自分の手順書だけで、会社の決まりや他の人が作った手順書は直しません。直した中身も記録に 1 行残すので、後から見て戻せます。
自己改善が効いているかは、どう確かめますか?
同じ AI エージェントの同じ型の躓きが、2 回以上出た割合を数えます。株式会社命では 12.9% で、1 回で止まったのが 87.1% でした(社の実測 2026-10-20)。ただし 1 回で止まった中には、もともと一度しか起きない躓きも含まれます。
1 回躓いただけで手順書を直さないのはなぜですか?
1 回の躓きは、たまたまの事が多いからです。毎回直していると手順書が膨らみ、かえって読み違いが増えます。まず 1 行書いておき、同じ型が重なったときに直します。
出典
- 株式会社命の判断の記録(2026-10-20 に全行を数えた)— 種別が 躓き・失敗・人の手が要った の行を、AI エージェントと型の組で束ねた割合(社の実測 2026-10-20)
- 自社の実測 — 会社全体の数字と数え方